世界共和国の確立へむけ
世界共和国へ—資本=ネーション=国家を超えて 柄谷 行人著
岩波新書 ¥ 777
著者は、”世界共和国”と題する最終章においてこう述べている。『われわれに可能なのは、各国で軍事的主権を徐々に国際連合に譲渡するように働きかけ、それによって国際連合を強化・再編成するということです。たとえば、日本の憲法第九条における戦争放棄とは、軍事的主権を国際連合に譲渡するものです。各国でこのように主権の放棄がなされる以外に、諸国家を揚棄する方法はありません。各国における「下から」からの運動は、諸国家を「上から」から封じ込めることによってのみ、分断をまぬかれます。「下から」と「上から」の運動の連携によって、新たな交換様式にもとづくグローバル・コミュニケーション(アソシエーション)が徐々に実現され(る)』世界共和国の実現へと導かれる、と。一見なるほどと思わせられる帰結である。しかしながら、それを断行するには、国連とは別個の絶対的権力の存在が不可欠であると思われる。なぜならば現行の主権国家が、自ら既存の主権を手放すことは非現実的であるからである。では、その役割をいったいどのような公権力が担えるというのか?この当然提起されるべき疑問に対し、著者はこう続けるのである。『もちろん、その実現は容易ではないが、決して絶望的ではありません。少なくともその道筋ははっきりしているからです』。ところが、これをもって本論は完了され、”あとがき”へと至るのである。プロとしての著者の文章力、ならびに構成能力について私ごときが議論する余地はない。その一方で、しかしながら僭越とはいえ、“机上の空論”とはまさにこのようなことをいうのであろうかと、私は複雑な読後感に浸っている。今後への問題提起という点においては、本書は有意義かもしれない、が、これによって、無自覚、しかも自己責任を果たし得ない“無国籍”の日本人が更に醸成されるならば、私は一教員として、著者の責任は極めて重いと断じざるをえない。