今を生きる:過去も未来もない、あるのはただ現在だけである
無境界―自己成長のセラピー論 ケン・ウイルバー著 吉福 伸逸訳
平河出版社(1986/06)価格: ¥ 2,100
あのときこうしておけば、と過去を思い悩む。明日はどうなるのだろうか、と未来を不安に思う。そして自分とはなにか、を思い煩う人々。そこに共通することは“今を生きることができない”ということである。遺伝的病理ではない精神疾患の多くはここにその因果をみることができる。普遍的宗教たる仏教、キリスト教、そしてイスラム教などは太古よりこう説いてきた:過去も未来もない。あるのは現在だけである。明日を思い煩うことなかれ。今を生きよ、と。本書『無境界』の中で、著者ケン・ウイルバーはこの普遍的真理と概念を駆使して“今を生きる”ことを熱く語る。「自分の内と外は無境界である。すべては一なるものであり、そこには過去も未来もない。あるのはただ現在のみである」。いま世界は混沌、混迷、そして混濁した時代にある。日本においても人間の根幹を揺るがす諸問題が顕現してやまない。私は医学教育に携わる者として、普遍的宗教が説いてきた真理、そして著者がコンパクトに、しかし堅実かつ科学的に詳述する本書の内容の“誠実さ”に改めて“今を生きる”ことの想いを強くしている。多くの方々に、さらに余力があれば人生に苦を感じてやまない人たちには是非とも本書をひもといてほしい。現代は物理的には豊穣である。ものにあふれかえっている。だが精神的にはどうだろうか。心の貧困さがこれほど著しい時代であるからこそ、この“今を生きる”ことの大切さが問わなければならない。